脳動脈瘤

    脳動脈瘤とは

    脳動脈瘤とは、一般に脳の動脈の分岐部にできた風船のような膨らみで、動脈壁が高血圧や血流分布の異常などのストレスを受けて拡張したものと考えられています。

    脳動脈瘤があると、稀に神経の麻痺など症状をきたすこともありますが、通常、自覚症状はなく、脳ドックなどの検査で偶然見つかることがほとんどです。成人の2~6%(100人に数人)にこのような瘤が発見されます。

    くも膜下出血

    くも膜下出血の原因は、外傷、脳動脈解離、脳動静脈奇形、原因不明なものなど様々ありますが、この脳動脈瘤の破裂が、原因の約80%を占めています(当院データ)

    くも膜下出血の症状

    症状は特徴的で、「突然ハンマーで殴られたような激しい頭痛」です。しばしば、嘔気、嘔吐を伴い、重症の場合には、意識を失ってしまうこともあります。麻痺が伴うことは少ない場合が多いです。
    しかし、稀に軽度の頭痛のこともあるため、注意が必要です。

    くも膜下出血の男女比

    くも膜下出血は女性に多い病気で、約2/3が女性で、女性は男性の約2倍の頻度で発症する事になります。

    くも膜下出血の転帰

    一般に古くから、1/3が死亡、1/3が後遺症、1/3が社会復帰できるといわれています。 過去10年間に中村記念病院に搬送されたくも膜下出血症例全例の転帰と脳動脈瘤破裂で治療をおこなったくも膜下出血例の転帰をグラフに示します。

    全くも膜下出血症例の17%が死亡、27%に後遺症が残る結果でした。
    一方、治療が可能であったくも膜下出血症例の死亡率は8%、後遺症は28%に残る結果でした。

    治療方法

    治療方法には大きく分けて、2通りの方法があります。「脳動脈瘤クリッピング術(直達手術)」と「コイル塞栓術(血管内治療)」です。

    脳動脈瘤クリッピング術


    直達手術の方法です。全身麻酔で頭を開け(開頭)、手術顕微鏡を用いて脳の溝の隙間を丁寧に分けていき、脳動脈瘤に到達し、チタンという金属製の「クリップ」で、動脈瘤の根元を挟んで閉塞し、出血しないようにする方法です。正常な血管を閉塞することなく、動脈瘤への血流を遮断することによって破裂を防止できます。

    コイル塞栓術

    血管内治療の方法です。近年目覚ましく進歩してきた治療方法で、マイクロカテーテルと呼ばれる極細のカテーテルを血管の中から動脈瘤まで導いて、プラチナ製の「コイル」で動脈瘤を閉塞する方法です。開頭の必要のないのが特徴です。日進月歩の治療法で、新しい道具、手技が次々に開発されています。

    治療方法の選択は、いずれの治療が適切かを診療部で検討し選択しています。
    当院には、脳神経外科専門医(クリッピング術)と血管内治療専門医(コイル塞栓術)の両方が常在しており、24時間いずれの治療選択も可能な状況を整えています。
    過去10年間の当院での、治療選択の割合を示します。血管内治療が年々増加傾向にあります。

    遅発性脳血管攣縮

    くも膜下出血の治療の第一段階は、出血を止めることですが、もう一つ厄介な問題があります。それが「遅発性脳血管攣縮」です。

    「脳血管攣縮」はくも膜下出血後5-7日目頃から14-21日目頃までの間に起こる、脳血管が縮む状態のことで、それによって約20%の人に脳血流が減少する事による神経症状(手足の麻痺や言語障害、意識障害等)が出現すると言われています。この状態を予防したり改善したりする目的で様々な治療が行われますが、場合によっては写真に示したように、血管の中から風船のついたカテーテルを用いて機械的に脳血管を拡張させる「血管拡張術」が行われる事もあります。

    くも膜下出血の治療数について

    毎年平均90例以上のくも膜下出血の患者様が搬入され、70例以上が外科的治療の対象となっています。

    未破裂脳動脈瘤について

    未破裂脳動脈瘤の破裂率

    2001年から2004年にかけて患者登録が行われたUCAS Japan(日本未破裂脳動脈瘤悉皆調査)の結果が、2012年6月にThe New England Journal of Medicineに発表になりました。3mm以上の未破裂脳動脈瘤の年間の破裂率は0.95%、7mmを越えると有意に破裂の危険が高まるという結果でありました。
    また従来、喫煙、高血圧、多発性、くも膜下出血合併(破裂動脈瘤と合併した場合)の方は破裂の危険がやや高まるといわれてきました。

    当院では、原則的に日本脳ドック学会の基準考慮し、

    • 余命が10-15年以上見込める方
    • 健康な方
    • 動脈瘤が5mm以上の方

    に破裂予防の治療をお勧めしていますが、5mm未満であっても、年齢、動脈瘤の部位、形状、患者様の不安など、様々の要素を検討して、患者様、ご家族様とのお話し合いの中でご希望に沿って治療方針を決定しています。

    当院の未破裂脳動脈瘤の治療成績について

    一般にどのような治療にも合併症の危険性があります。
    開頭術クリッピングによる合併症として、脳内出血や、血管の閉塞による脳梗塞、脳の損傷、感染症、痙攣や美容上の問題などが報告されています。重篤な合併症は5~10%程度、死亡する可能性は1%程度と報告されています。また脳動脈瘤の血管内治療の合併症は、コイルの逸脱や手技中の血管閉塞、瘤の破裂、血腫の形成などが挙げられます。重篤な合併症は5~10%程度と報告されています。

    当院での過去10年間の未破裂脳動脈瘤の合併症は、開頭クリッピング術で3.4%、死亡率は0%でありました。コイル塞栓術では、3.0%、死亡率は0%でありました。

    以上、中村記念病院での治療実績も含め脳動脈瘤、くも膜下出血について解説させていただきました。
    中村記念病院では、脳卒中センターにて、診療部、救急部、手術室、集中治療室、放射線部、リハビリテーション部などの各部署の力を合わせて、この困難な病気の治療にあたっています。

    参考文献

    • 日本脳神経外科学会のホームページ
    • 脳ドックのガイドライン2008
    • The Natural Course of Unruptured Cerebral Aneurysms in Japanese Cohort N Engl J Med.2012; 366:2474-82
    • Small unruptured intracranial aneurysm verification study: SUAVe study, Japan. Stroke 41:1969-1977, 2010