脳動静脈奇形

脳動静脈奇形の治療

脳動静脈奇形とは、先天的な原因により脳の血管網の一部が毛細血管を欠いて、動脈と静脈が直接吻合する構造となり、脳の内部に血管の塊まりが形成される疾患です。この血管塊には動脈血が直接流れ込むため、その圧力によって血管塊の一部が破裂してくも膜下出血や脳内出血が生じます。また、本来脳組織に流れ込むべき血流がこの血管塊に盗みとられるため、血管塊の周りの脳組織に血流障害が生じ、てんかん発作を引き起こします。

好発年齢は10-30才代で、80%以上が50才までに発症し、若年者の脳卒中の原因として比較的頻度の高い疾患です。2/3が出血、1/4がてんかん発作で初発します。出血時の代表的症状は、くも膜下出血による突然の激しい頭痛で、悪心・嘔吐を伴います。重篤な例では、意識障害もみられます。脳実質内へ出血した場合には、その大きさや部位に応じて、片麻痺・知覚障害・失語・視野障害などの神経脱落症状が出現します。

脳動静脈奇形の治療は、1990年頃までは開頭手術による摘出が一般的でしたが、現在では、血管内手術による塞栓術や、ガンマナイフを用いた定位的放射線治療が、有効性と安全性の面で優れた治療法として選択されるようになって来ています。特に、手足を動かす運動中枢や、言語中枢に近接する脳動静脈奇形の治療では、開頭手術により運動障害や言語障害が出現することがあるため、後二者の治療法が第1選択となります。しかし、大きな脳内出血のために意識障害が出現している場合には、救命を優先し、緊急開頭手術が必要となります。

血管内手術による塞栓術では、大腿動脈経由で、脳動静脈奇形に流入する動脈まで、マイクロカテーテルを進め、その先から固体または液体の塞栓物質を注入して動脈の流入を閉じます。多数の流入動脈を有する場合には、塞栓術を何回かに分けて実施します。

ガンマナイフを用いた定位的放射線治療では、脳動静脈奇形の血管塊に対して、ガンマ線を集中的に照射します。これによって血管壁の損傷が生じ、動脈硬化と同様のメカニズムにより、内腔が徐々に閉塞して行きます。

病変部に収束する放射線の照射ですから、これまで手術が不可能だった部位の病変でも治療が可能となります。ただし、脳動静脈奇形の体積が10ml以上 (直径にして2.2cm以上) では、周囲脳組織への放射線照射量が増えてくるため、血管内手術による塞栓術を併用し、体積をできる限り減じることにより、治療効果を上げます。

くも膜下出血が確実になったら、次に必ず脳血管造影を行わなければなりません。脳血管造影により、動脈瘤の部位、大きさを確認し治療計画を立てます。

脳動脈瘤の治療は、開頭クリッピング術が一般的で、うまくクリップをかけることができれば完全に治すことができます。したがって、発症からなるべく早く手術を行うことが重要です。この他の治療法として、最近では、脳血管内手術が注目されています。これは、大腿動脈から極細のカテーテルを脳動脈瘤の根元まで挿入し、この先から極細のプラチナコイルを動脈瘤内に充填する方法で、コイル塞栓術と呼ばれています。現在のところ、コイルの挿入が可能な症例に限って行われていますが、将来性のある治療法といえます。

くも膜下出血は、50才前後の働き盛りの人々に好発する重篤な病気であることから、最近では、MRIや3次元CTを用いた非侵襲的脳血管造影検査により、破裂する前に脳動脈瘤を発見しようとする脳ドックが、さかんになって来ています。破裂後の医療費や様々な損失を考え、脳ドックを導入する企業も増えてきています。但し、未破裂脳動脈瘤の予防的クリッピング手術の是非については、現在のところ様々な議論のあるところです。