くも膜下出血
くも膜下出血の治療
くも膜下出血とは、脳表と脳を覆うくも膜との間 (くも膜下腔) に存在する動脈が破れ、くも膜の下に出血が広がった状態のことを指します。出血原因のほとんどは脳底部の動脈にできた瘤(嚢状動脈瘤) からのものです。脳動脈瘤は、脳動脈の枝分かれする部分が膨れてできます。脳動脈の分枝部では、平滑筋からなる中膜が欠損し薄くなっていることが多く、そこに血流がぶつかり、しだいに膨らんで動脈瘤が形成されると考えられています。
脳動脈瘤が破れると、猛烈な頭痛におそわれ、同時に吐き気や嘔吐が起こって、そのまま気を失ってしまいます。出血量が少ないときには間もなく意識が戻りますが、出血量が多い場合や脳の中に破れ込んでしまうと、意識が戻らず、麻痺や言語障害も出現し非常に危険な状態となります。いったん出血が止まっても、数時間から数月のうちにまた出血することが多く、これが命取りになることも少なくありません。また、出血からの時間が経過すると、首 (うなじ) などが硬直し、首が前に曲がらなくなります。
くも膜下出血の診断は、発症のしかたと臨床症状だけでも可能ですが、確実なのはCTによるもので、脳の表面のシワ (脳溝) や底面 (脳槽) が血液により白く見えます。CTではっきりしない場合には、腰椎穿刺を行って、脳脊髄液を採取し出血を確認します。
くも膜下出血が確実になったら、次に必ず脳血管造影を行わなければなりません。脳血管造影により、動脈瘤の部位、大きさを確認し治療計画を立てます。
脳動脈瘤の治療は、開頭クリッピング術が一般的で、うまくクリップをかけることができれば完全に治すことができます。したがって、発症からなるべく早く手術を行うことが重要です。この他の治療法として、最近では、脳血管内手術が注目されています。これは、大腿動脈から極細のカテーテルを脳動脈瘤の根元まで挿入し、この先から極細のプラチナコイルを動脈瘤内に充填する方法で、コイル塞栓術と呼ばれています。現在のところ、コイルの挿入が可能な症例に限って行われていますが、将来性のある治療法といえます。
くも膜下出血は、50才前後の働き盛りの人々に好発する重篤な病気であることから、最近では、MRIや3次元CTを用いた非侵襲的脳血管造影検査により、破裂する前に脳動脈瘤を発見しようとする脳ドックが、さかんになって来ています。破裂後の医療費や様々な損失を考え、脳ドックを導入する企業も増えてきています。但し、未破裂脳動脈瘤の予防的クリッピング手術の是非については、現在のところ様々な議論のあるところです。